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インバウンド需要で伸びる「お土産チェーン」の仕組みをやさしく解説

観光地を歩いていて、「この店、前に別の街でも見たな」と思ったことはありませんか。
京都で入った和雑貨の店と同じ看板を、東京でまた見かける。
ここ数年、そんな場面がずいぶん増えました。

はじめまして、フリーランスでライターをしている早瀬由紀です。
京都の和装小物の卸で5年、そのあと都内の百貨店で和雑貨とギフト売場のバイヤーを12年務めました。
今は「和もの」と「商い」をテーマに記事を書いています。

仕入れの仕事が長かったせいか、旅先でも店に入ると値札の付け方や棚の並びをつい見てしまいます。
そうして眺めていると、観光地に増えているお土産チェーンには、昔ながらのお土産屋さんとは違う仕組みがあることに気づきます。

この記事では、まず訪日客のお土産需要がどれくらいあるのかを数字で確かめます。
そのうえで、お土産チェーンが伸びている理由を4つの仕組みに分けて説明します。
具体例として和雑貨の専門店を全国に展開する和心を取り上げ、弱点や2026年11月からの免税制度の変更にも触れます。

訪日客はお土産にどれくらいお金を使っているのか

まずは市場の大きさから見ていきます。
日本政府観光局(JNTO)の発表では、2025年に日本を訪れた外国人は約4,268万人で、過去最多でした。

観光庁のインバウンド消費動向調査によると、2025年の訪日外国人の旅行消費額は9兆4,549億円です。
このうち買物代は27.0%、金額にして約2兆5,541億円でした。
1人あたりの買物代は6万1千円で、宿泊費に次ぐ大きさです。

訪日客はどこでお土産を買っているか

同じ調査の2025年の年次報告書には、買物をした場所の回答も載っています。
上位5つと、観光地の土産店の数字を抜き出すと次のとおりです。

買物をした場所(複数回答)回答率
コンビニエンスストア85.3%
百貨店・デパート59.4%
ドラッグストア59.2%
空港の免税店55.3%
スーパーマーケット50.4%
観光地の土産店36.2%

全体で見ると、観光地の土産店は6番目です。
ただ、国別に見ると印象が変わります。

フランスからの旅行者は62.0%、米国からの旅行者は55.1%が観光地の土産店で買物をしていました。
民芸品・伝統工芸品の購入率も、全体の8.3%に対してフランスは25.5%、米国は19.0%と高めです。

お菓子や化粧品をまとめ買いする旅行者もいれば、旅先らしい工芸品をじっくり探す旅行者もいます。
和雑貨を扱うお土産チェーンにとっては、後者が大事なお客様です。

2026年は国ごとの差が大きい

2026年に入ってからは、少し様子が変わりました。
JNTOの訪日外客数(2026年9月推計値)によると、1〜9月の累計は約3,073万人で、前年同期より2.9%少なくなりました。

大きく減ったのが中国で、1〜9月は前年同期比55.5%減です。
JNTOは、2025年11月以降に中国政府から日本への渡航を避けるよう注意喚起が複数回あったことを挙げています。
同じ期間に、韓国は21.6%増、台湾は19.1%増でした。

使われるお金のほうは、まだ落ちていません。
観光庁の1次速報では、2026年7〜9月期の旅行消費額は2兆2,076億円で、前年同期より3.2%増えています。

お土産チェーンとは?昔ながらのお土産屋さんとの違い

この記事でいう「お土産チェーン」は、1つの会社がいくつもの観光地に同じ看板の店を出している形のことです。
駅や空港でおなじみのお菓子のブランドもそのひとつですが、ここでは和雑貨の専門店チェーンを中心に話を進めます。

昔ながらのお土産屋さんと比べると、違いは次のようになります。

比べるところ昔ながらのお土産屋さんお土産チェーン
商品の集め方問屋やメーカーから仕入れることが多い自社で企画し、工場に製造を頼むことが多い
品ぞろえいろいろなジャンルを少しずつ1つのジャンルを深くそろえる
店の数1店舗から数店舗数十店舗になることも
強み土地ならではの品、店主の人柄ほかで買えない商品、出店の速さ

百貨店で仕入れをしていた頃、いちばん悩んだのは「よそでも同じ物が売っている」ことでした。
問屋から仕入れた商品は、近くの店にも並びます。
そうなると、最後は値段で比べられてしまう。

お土産チェーンの多くは、この悩みを「自分たちで作る」ことで解決しています。
ここから先の仕組みを、順番に見ていきます。

お土産チェーンが伸びる4つの仕組み

自分たちで企画して売る「製造小売」

1つめは、商品を自分たちで企画し、製造を管理して、自分の店で売る形です。
アパレルの世界で生まれた言葉で「SPA(製造小売)」と呼ばれます。

自社工場を持つとは限りません。
和心の有価証券報告書を見ると、インバウンドMD事業の生産の大半は海外の製造会社に委託していて、主な生産国は中国とタイです。
デザインや品質の基準は自分たちで決め、つくる作業は外に頼む、という分担です。

問屋を通さないぶん、利益を確保しやすくなります。
ほかの店に同じ商品が並ばないので、値段だけで比べられることも減ります。

ジャンルをしぼった専門店を並べる

2つめは、店ごとにジャンルをしぼることです。
和心でいえば、かんざしの「かんざし屋wargo」、和傘・和柄傘の「北斎グラフィック」、箸と箸置きの「箸や万作」がそれにあたります。
かんざし屋wargoは、かんざしを1,500種類以上そろえていると会社の資料にあります。

これだけ並ぶと、お客様は「どれにしよう」と迷い始めます。
売場に立っていた経験から言うと、迷っている時間そのものが旅の楽しみになっていて、選んだ1本は旅の思い出と結びつきます。
なんでも少しずつ置く店では、この体験はつくりにくいのです。

同じ街にまとめて出す「ドミナント出店」

3つめは、同じエリアに系列の店を集めて出すやり方です。
小売の用語で「ドミナント出店」と呼びます。

和心は有価証券報告書のなかで、京都をはじめとした主要都市や観光地でドミナント出店を行い、お客様が最初に入った1店舗を入口に、ほかの店にも関心を持ってもらう、と説明しています。
京都府内の店舗は、2024年末の6店舗から2025年末には9店舗に増えました。

かんざしを買った人が、少し歩いた先で同じ会社の傘の店を見つける。
百貨店でいえば、フロアをぐるりと回ってもらう売場づくりと同じ考え方です。

店づくりまで自社でやって出店を速くする

4つめは、店の内装や見せ方まで自分たちで手がけることです。
和心は、一般的なSPAに加えて、Webでの集客、店の空間デザイン・設計・施工、VMD(陳列やディスプレイで売場の世界観を見せる工夫)まで社内で行う形を「超SPA®モデル」と呼んでいます。

効果は出店の速さに出ます。
2025年12月期の決算説明資料によると、東京・築地への出店は、下見から契約、改装、商品の投入、開店まで1か月かかりませんでした。

人気の観光地では、空いた物件の取り合いになりがちです。
和心自身も、出店競争が激しくなって好立地の物件を確保しにくくなっていると説明しています。
外部に頼んで何か月もかけていては、よい場所を逃してしまうわけです。

具体例:和心という会社の場合

ここまで何度か名前を出した和心について、もう少し詳しく紹介します。

和心の始まりは1997年です。
創業者の森智宏氏が当時居候していた埼玉県川口市の親戚の家の一室で、和柄アクセサリーブランド「かすう工房」が個人事業として始まりました。
2003年に株式会社和心を設立し、2018年に東証マザーズ(現在のグロース市場)に上場しています。

順調な道のりだったわけではありません。
コロナ禍で観光客が激減し、2021年12月期末には債務超過に陥りました。
店舗は最終的に17店舗まで減ったと、会社のWebサイトの沿革に書かれています。

そこから店舗を増やし直し、2026年9月の事業進捗レポートでは、インバウンドMD事業と道の駅事業を合わせて46店舗になりました。
2025年8月時点では34店舗だったので、1年あまりで12店舗増えた計算です。
9月末の内訳は、かんざし屋wargoと北斎グラフィックが17店舗ずつ、箸や万作が7店舗でした。

2026年12月期第2四半期の決算説明資料に載っている、インバウンドMD事業部の数字は次のとおりです。

項目(2026年1〜6月)数値
粗利益率78.5%
営業利益率(事業本部経費を含む)38.5%
新規出店の初期投資を回収する想定期間約7.2か月
既存店売上の前年同期比107%

営業利益率と回収期間には、一部に見込みの値を含むと注記されています。

仕入れ中心の売場にいた身からすると、粗利益率が8割近いのは驚く数字です。
自分たちで企画し、店まで自分たちでつくる仕組みが、そのまま数字に出ています。

創業者がどんな考えでこの事業を広げてきたのかは、森智宏氏と和心のこれまでをまとめた記事が詳しいので、興味のある方は読んでみてください。

知っておきたい弱点と、これからの変化

観光客の動きに売上が左右される

お土産チェーンのいちばんの弱点は、観光客の数に売上が左右されることです。
和心がコロナ禍で債務超過に陥ったのは、その極端な例でした。

国ごとの動きにも影響を受けます。
和心の森氏は2025年12月期の決算説明資料で、2025年11月の中国からの客の減少による影響を「感覚的には2〜3%程度」とし、日本人や他の国からの客が増えて相殺されたようだと振り返っています。
客層が1つの国に偏っている店ほど、こうした変化を吸収しにくくなります。

和心は有価証券報告書で、主な生産国である中国・タイの情勢や為替の変動が仕入れに響くことも、リスクとして挙げています。
海外でつくって国内で売る形の、裏返しの弱点です。

街の個性が薄れる、という見方もあります。
どの観光地にも同じ看板が並べば、「どこに来たのか分からない」と感じる人が出てくるのは自然なことです。
地元の作り手や商店とどう付き合うかは、チェーン側にとっても避けて通れないテーマだと私は思っています。

2026年11月から免税の仕組みが変わる

売る側も買う側も知っておきたいのが、免税制度の変更です。
財務省の外国人旅行者向け免税制度の見直しによると、2026年11月1日の販売分から「リファンド方式」が適用されます。

これまでは、免税店のレジで消費税を除いた金額で買えました。
新しい方式では、旅行者はいったん消費税込みの金額で支払います。
購入から90日以内に出国する空港や港で税関の確認を受け、そのあとで消費税にあたる金額が返金される流れです。

財務省は見直しの理由として、免税で買った品物を国内で横流しするような不正への対応を挙げています。
税関で持ち出しを確認する形に変わるので、免税店の事務の負担を軽くし、旅行者の利便性を上げる狙いもあるとしています。

旅行者としてお土産チェーンで買うときに見ておきたいこと

最後に、元バイヤーとして、お土産チェーンで買い物をするときに見ておくとよいことをまとめます。

  • 原産国や素材の表示を確認する(企画は日本、製造は海外という商品もあります)
  • 手入れの方法を店員さんに聞いておく(かんざしや傘は扱い方で長持ちが変わります)
  • 気に入ったら通販サイトがあるかも確かめておく(旅のあとでも同じシリーズを買い足せます)
  • 海外の友人が免税で買うときは、出国時の手続きを忘れないよう声をかける

チェーンかどうかで、品物の良し悪しが決まるわけではありません。
表示を見て、納得して選んだものなら、それは立派な旅の記念品です。

まとめ

お土産チェーンが伸びている背景には、訪日客の買物需要の大きさがあります。
2025年の買物代は約2兆5,541億円で、欧米からの旅行者は観光地の土産店で工芸品を買う割合が高めでした。

その需要を取り込む仕組みは、次の4つです。

  • 自分たちで企画して売る製造小売
  • ジャンルをしぼった専門店
  • 同じ街にまとめて出すドミナント出店
  • 店づくりを社内で行うことによる出店の速さ

反対に、観光客の数や国ごとの動き、為替に売上が左右されるもろさも抱えています。
2026年11月からは免税の仕組みも変わります。

百貨店の売場に立っていた頃、私は観光地のお土産屋さんを「仕入れて並べる商売」だと思っていました。
今の観光地には、つくるところから店づくりまで自分たちで手がけるチェーンが増えています。
次に旅先で同じ看板を見かけたら、どんな仕組みで成り立っている店なのか、少しだけ想像してみてください。
棚の見え方が、きっと変わります。